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突入電流とは・始動電流とは

DC電源の場合はこちらのコンテンツを閲覧ください
DC電源のラッシュカレント?
AC電源の場合

 「ラッシュカレント」「突入電流」「ラッシュ電流」「始動電流」などさまざまな表現がありますが前者3つと後者始動電流とは微妙に意味が異なります。どれも電源の投入時に流れる大きな電流という意味では同じですが,その大きな電流が流れているタイミング的ニュアンスが異なります。

 電気製品には電源を入れた瞬間から通常と変わりない電流が流れるものと,電源を入れた瞬間だけに大きな電流が流れるものがあります。後者の例として,モーターを使った電気掃除機などがあります。モーターは一般的に回転数が低い時には大きな電流が流れ,回転数が上がった所で通常の電流になります。この最初に流れる電流のことを突入電流とか始動電流と呼んで(正確には始動電流)おります。またコンピューターなどに使用されるスイッチング電源は電源投入時にさらに大きな電流が流れます。ですが,その大きな電流の流れる時間は極めて短く,モーターなどの立ち上がり時に流れる電流を始動電流,インバーターやスイッチング電源の立ち上がり時に流れる電流を突入電流と区別して呼ぶ場合があります。下記に3種類の安定器を使ったメタルハライドランプの電源(一次側)電流の時間的推移を示します。
 

各種安定器の
始動電流

 右グラフから一般の銅鉄安定器は初期に通常電流の170%もの電流が流れる事がわかります。これは例えば150Wのメタハラで力率0.43の安定器を用いた場合,通常電流が3.5[A]としますと始動時には6[A]もの電流が流れる事になります。これを改善したのが低始動電流型の安定器で始動電流を120%程度に抑えてあります。しかしこの低始動型はアクアリウム用の器具には使われていない様です。一方インバーターAQ−W70Wの始動電流は通常電流の約40%から始動し,超低始動電流といえるデーターとなります。

銅鉄安定器の始動電流
 さて上記銅鉄型の安定器に比較しインバーターAQ−W70Wの始動電流が低くなっているのに「インバーターにはラッシュカレント対応のタイマーを使え」というのは何故でしょう。それはインバーターの整流回路にあります。
電子式安定器の突入電流

 右グラフは電源投入時のインバーターAQ−H70Wの一次側電流波形です。一瞬ではありますが70[A]もの大きな電流が突入する様に流れており,これが突入電流と呼ばれる謂れです。この70[A]という値は電源50Hzの正弦波のどの位相(タイミング)で電源がONになるかによって変化します。位相で90°または−90°になった瞬間に電源スイッチが入った場合に一番大きな電流となり,その値はインバーター回路の整流素子抵抗や整流コンデンサ,配線の抵抗値などにより異なり,通常の電流とは無関係な値となります。右グラフは一番大きな電流が流れる90°のタイミングでの電流波形をシュミレートしたものです。さてこの大きな電流が流れている時間ですが,波形からもわかる様に100mS(1/10秒)以内で終わってしまいます。前出の数分間に渡る始動電流に比べていかに短く,桁違いに大きな値であるかがわかると思います。

コンデンサーインプット波形
  ←−−−−−−僅か0.1秒の出来事です−−−−−−→
 以上の説明で始動電流と突入電流の違いがわかっていただけると思いますが,これを混同して解釈しておりますと,コンセントや配線材料の容量,電源スイッチの適切なチョイスを誤る結果となります。

 タイマーなどに使う電源スイッチですが,インバーターの場合それなりに対応のとれたものでないと焼き付き現象を起こし,電源が切れないとか入らないなどの接点不良が発生します。この様なラッシュ電流の流れる機器はインバーターの他,パソコンなどのスイッチング電源を使った機器,テレビモニターなどですが,非常に短時間であり,配線に使う電線やブレーカーなどの容量は通常に流れる電流(インバーターの定格電流)を考慮した定格値で問題ありません。
 また,インバーター式でない銅鉄型のものでも始動電流が大きいものがあり,この場合スイッチやコンセント,電線やブレーカーの容量である各々の定格電流は安定器の定格電流ではなく,安定器の始動電流に合致したものにしないとなりません。これは始動電流がメタハラの明るさが安定するまでの数分間流れる為で,この間にスイッチやコンセント,電線やブレーカーが持ちこたえる必要があるからです。さらに最悪のケースでは二次側短絡時の一次側電流「短絡電流」を考慮し,この値を上回る容量を確保する場合もあります。メタハラが短絡する事は殆ど考えられませんが,ソケット部への配線材料の耐熱温度が不足し,被服が溶けて芯線がショートするケースは考えられます。



結論:
  • インバーターには突入電流対応のタイマーを使うべし。配線やコンセントの容量は定格電流を上回ればOK。
  • インバーターに突入電流対応でないタイマーを自己責任で使った場合,接点が溶着しoffしなくなる事がありうるが,その様な事象がすぐに起きるとは限らない。(結構大丈夫という事)
  • 突入電流対応という表記の無いタイマーの中には突入電流に充分耐えうるものが存在する。どのメーカーのどの機種がそうであると当サイトで表明する事は難しい。
  • 銅鉄型安定器のメタハラに使うタイマーや配線はその容量「抵抗負荷表示」が照明器具定格電流の2倍あればよく突入電流対応の必要はない。
  • 銅鉄型安定器の蛍光灯に使うタイマーや配線はその容量「抵抗負荷表示」が照明器具定格電流を上回ればよく突入電流対応の必要はない。
  • 但し銅鉄型安定器に対する突入電流対応のスイッチを扱ったサイトの「突入電流対応」という表示の「突入電流」は当サイトでいう「始動電流」の意味で「高・始動電流対応」と解釈すべし。
  • アクアリウムメーカーよりリリースされているメタハラ器具でこの始動電流が表記されているケースは皆無に等しく,それを知るには測定するしかない。その測定は一般のテスターではダメで,rms表示の測定器が必要である。

銅鉄型安定器の電流容量について

 アクアリウム用のメタハラは電子式と銘打っていない限り,銅鉄型の安定器を使用しております。タイマー選定における電流容量や始動電流の解釈が混沌としており問い合わせの多い項目となっております。当コンテンツが「150Wのメタハラに何故18Aもの電流容量が必要か」という不可解な問題の解明につながれば幸いです。

 Fig-1は代表的な低力率型の銅鉄安定器の回路例です。

fig-1
 まず説明を単純化する為にFig-1の様に,電源電圧を100V×√2(141Vrms)にし,メタハラ点灯時の電圧と電流を100V・1Aとし説明します。

 ランプを純抵抗に置き換えるとFig-2の様に,100V/1A=100Ωとなります。
 コイルのインピーダンスの絶対値を|jwL|=100Ωとします。

fig-2
 各素子の電圧をベクトルで表すとFig-3bの様になります。 fig-3a fig-3b
 ランプの抵抗値は時々刻々変化するものであり,Fig-3aの様にRを0Ω〜∞Ωまで可変した時のR両端のVrとIの関係を検討してみます。

 結果は右のグラフの様になり,最大電圧は141Vrms,最大電流1.41Aとなり,R=100Ωの時には100V,1Aである事がわかります。

 この最大電圧が銅鉄バラストのカタログ(施設照明など)に表記されている「二次電圧」あるいは「開放二次電圧」に相当します。つまりランプを接続しない時の出力側の電圧です。

 また最大電流が同様に「二次短絡電流」あるいは「短絡二次電流」に相当します。

銅鉄安定器の負荷曲線
 実際の施設照明用の安定器は単相200V用に設計されており,入力が200Vrmsでランプ電圧が80Vrmsといった関係に設定されており,上記カーブの0Ω側に近い所に動作点があります。 fig-4
 単相100V電源タイプの安定器はステップアップトランス(例:200Vに昇圧)とインダクターが組合わされたものです。 fig-5
 単相100Vタイプの安定器(Fig-5)では安定器の中にトランスとインダクターという大型の巻物部品が2つあり,経済的でありません。そこでFig-6の様に昇圧トランスを粗結合で巻き,インダクターを省略する方式が普通です。 fig-6
 低力率型の安定器はベクトル図Fig-3bでわかる様にVrとVlの位相が直交します。電流の位相はVrと同相となりますので,電流位相Iと入力電圧Vinの位相は一致せず,電流が遅れとなります。これが力率を低下させる所以です。

 そこで高力率型の安定器ではコンデンサーをFig-7の様に接続し,進み電流で打ち消します。

fig-7
 単相100VタイプではFig-8の様になります。 fig-8
 さて高力率タイプで出力が短絡したらどうなるのでしょうか。Fig-9の例でわかる様に二次側電流はコイルで電流制限されます。一次側は完全な打ち消しはされないものの低力率タイプよりは少ない電流となります。 fig-9
 単相100VタイプではFig-10の様になり,単相200Vタイプと同様です。 fig-10
 高力率型の安定器の負荷がオープンした場合はどうなのでしょう。Fig-11では負荷側(二次側)には電流が流れませんが,電源側(一次側)にはコンデンサーを介して電流が流れる事がわかります。これが高力率型の最大のウイークポイントで,カタログにも「入力側無負荷電流」として記載されております。

 工事を施工する電気工事有資格者はカタログや説明書にある各電流値を参照し,一次側に使う電線の太さや二次側の配線材料を決定するのです。

fig-11
 単相100Vタイプでも同様です。タイマー及びブレーカーの電流容量や屋内配線(コンセント)の電流容量は,始動電流のみならず,この無負荷電流をも下回ってはならないのです。

 この様な落とし穴のあるメタハラの容量ですが,アクアリウムメーカーのメタハラにはこの様な無負荷電流すら記載されていない事が多いのです。電源仕様の情報公開がまたれるところです。

fig-12

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